山の民

山の民の誇りを持ち、
十津川村に生きる人々を紹介します。

Vol.7

2026.03.26

フォレスターとして、未来を見据え、森を導く。

奈良県フォレスター
十津川村役場農林課
川北 達也さん 水本 美佳子さん

十津川村の森を守り伝えるために。
森の専門家・フォレスター(Forester)の静かな奮闘

奈良生まれ・奈良育ちのフォレスター。十津川村で森を守る

「フォレスター」という仕事を知っていますか。フォレスターとは、森林や林業に関する知識・技術を有し、長期的・広域的な視点で森林づくりの指導・助言を行う専門職です。奈良県では、奈良県フォレスターアカデミーで2年間修行し、林業や森づくり、植物、防災などに関する専門知識を身につけた後、県から各自治体へ派遣されます。長い歳月をかけて一つの地域に関わることで、長い目で森林保全にあたれることが大きな特徴です。

今回お話を伺ったのは、十津川村に派遣された川北さんと水本さん。二人とも、奈良県で生まれ育ちました。「地元に貢献したい、大好きな自然に関わる仕事がしたいという思いがきっかけでした。前提知識がなくてもアカデミーで勉強できるという制度も魅力的」と語る川北さん。水本さんは「人口減少や高齢化で寂しくなっていく生まれ育った里山を、森林整備という側面から活性化したい」と決意したそうです。奈良の大きな資産である森を守るため、二人はこの道に飛び込みました。

形にするのは「みんなの思い」。葛藤の先に納得の未来がある

フォレスターの仕事は、事務作業から現場作業まで多岐にわたります。主な業務の一つが伐採届の審査。提出された伐採計画と現況を確認し、必要であれば、山の所有者や申請者に指導を行います。

木を一本切るのにも、そこには何人もの思いが重なります。現場へ行けば、山の所有者の方から森の歴史を聞くことも少なくありません。「おじいちゃん、おばあちゃんが頑張って植えた木。ずっと面倒を見てきたけど切りたい」という所有者の切実な思いと、森のために「今は残すべき」という専門家としての判断。「所有者の思いも痛いほどわかる。けれど、森の未来を考えると譲れないこともある」と川北さん。地形や気候、土壌。現場ごとに異なる複雑な条件のもと、お互いが納得できる形を模索し、考え抜く。フォレスターの腕の見せ所です。「考え尽くした結果を所有者さんに後悔なく説明できたとき、やりがいを感じましたね」と水本さんは語ってくれました。

そのほか、十津川の森をより良くするための話し合いの場「森林(もり)づくり審議会」も運営します。現場で作業する人、木材の販売や加工に携わる人、他の専門家など、多様な人々を交えて、森の守り方について話し合うのです。

地形図を手に、道なき未知を進む

十津川村が所有する村有林は、人工林・天然林併せて4000ha を超える広さ。村有林の調査のため、時には地形図を頼りに、道なき道を進むこともあります。「山を歩くのにまだ慣れておらず、余計な力が入ってクタクタに。生きて帰れて良かったと思いました」と水本さん。川北さんは「山を一つずつ制覇して、村の姿がだんだんわかってくるのが面白いです」と笑います。

これからのビジョンについて、二人はこう語ります。

「もっと地域住民と対話したい。自分たちのことを知ってもらって、信頼していただく。その中で、十津川の森に対するみんなの思いをつなぐ仕事がしたい」と川北さん。

水本さんは、自身の原点である「地域課題の解決」に携わりたいという思いが強くなったと言います。「人口減少や高齢化で担い手が不足し、放置された森が人の命を脅かすかもしれない。森を通じて、住民の皆さまの暮らしに貢献したい」。

成長に時間がかかり、すぐに成果が見られない森の仕事。だからこそフォレスターは、静かに、情熱を秘めて、遠くを見据えるのです。

現場でさまざまなデータを収集します。

木の高さを目測で推定。経験がものを言います。

森林の調査では2人で行動することも多いそう。

斜面の角度をスマートフォンで測ります。

チェーンソー技術の日本一を競う「日本伐木チャンピオンシップ」。
水本さんは「林業の危険なイメージを、安全でかっこいいものにつなげられたらと思い、取り組んでいます」と語ります。
2025年には「第4回日本伐木チャンピオンシップin鳥取」でレディースクラス2位に輝きました。