(6)~(10)まで

(九) 助動詞の十津川言葉

(6)打消の助動詞の十津川言葉

(イ)打消の助動詞の正しい使い方

雨が降らない
試験が受けられない

上の「ない」は打消の助動詞で動詞や助動詞の未然形について打消の意味を表し、次のように活用される。

動詞助動詞未然連用終止連体仮定
う、に続くた、なる、に続く言いきる時、こと、に続くば、に続く
降らないなかろなかっ
なく
ないないなけれ
受けられないなかろなかっ
なく
ないないなけれ

上の外に打消の助動詞には「ず」「ぬ」「ね」「ん」がある。

危険な所に行かぬようにしなさい
何もいわずにいる方がよい
身のふり方をきめねばなりません

(ロ)打消の助動詞の十津川言葉

十津川に於ては「ない」と云う語より「ん」の方が多くつかわれる。
連用形の「なかった」は「なんだ」とつかう

 例行かなかった行かなんだ
来なかった来なんだ

この「なんだ」は室町時代から江戸時代にかけて盛んに用いられた言葉である。江戸末期になって「なかった」という言葉に変わったが十津川では今でも盛んにつかわれ方言となって残っている。
仮定形の「なければ」は十津川では「にゃー」とつかっている。


行かにゃーならん
来にゃーならん


今、「行く」と云う言葉を十津川方言でどんなにつかうか書いてみよう

十津川言葉正しい言葉
・行かんぢゃろう行かなかろう
・行かなんだ行かなかった
・行かんようになった行かなくなった
・行かん行かない
行きません
・行かんときゃーなあ行かない時はない
・行かにゃーならん行かねばなりません

(ハ)形容詞の「ない」と打消の助動詞の「ない」

この時計は新しくない
この時計はくるわない

上の言葉を十津川言葉に直すと

この時計は新しゅうなあー
この時計はくるわん

同じ打消の意味を表す言葉であるが、一方は「なあー」となり、一方は「ん」となる。これはつまり同じように見えて性質が異なるからである。前の「ない」は形容詞で、後の「ない」は助動詞である。形容詞の方には「新しくもない」と「も」を入れることができるが助動詞の方には「くるわもない」と「も」を入れることができない。
十津川に於ては形容詞のないは「なあー」とつかい、助動詞の「ない」は「ん」とつかう。

(7)希望の助動詞の十津川言葉

(イ)希望の助動詞の正しい使い方

僕も行きたい

上の「たい」は希望の助動詞である。動詞の未然形について希望の意味を表す。

動詞助動詞未然連用終止連体仮定
う、に連なるた、なる、に続く言いきる時、こと、に続くば、に続く
行きたいたかろたかっ
たく
たいたいたけれ
食べたいたかろたかっ
たく
たいたいたけれ

(ロ)十津川に於ける希望の助動詞のつかい方

十津川では連用形が「なる」に連なる時音便で「とうなる」と云い、終止形及び連体形では「たい」と云わず「たあー」とつかう。又仮定形では「たけりゃー」となる。

例行きたくなる行きとうなる
行きたい行きたぁー
行きたい時がある行きたぁー時んある
行きたければ行け行きたけりゃー行け

(ハ)「たがる」と十津川言葉

十津川に於ては希望の意味を表わす「たがる」という言葉を多くつかう。
これは「たい」の語幹に「がる」という接尾語がついたものである。その活用は次の如くである。

行きたがらん行きたがろう未然形
行きたがった連用形
行きたがる終止形
行きたがる時んある連体形
行きたがりゃーつれて行け仮定形
行きたがれよ命令形

希望の助動詞には命令形がないが、この「たがる」には命令形がある。

(8)推量の助動詞の十津川言葉

(イ)推量の助動詞の正しい使い方

a 明日は雨降りであろう 

b 先生がお話されよう

c 彼は旅行するらしい 

d 今年は実がなりますまい 

e 今日は字を書こう 

f さあでかけよう 

g どうやら雨になるらしい 

h つまらぬことは考えまい

上の下線を引いた語はすべて推量の助動詞である。推量の助動詞は単に推量の意味を表すだけではない。
上の言葉でわかる如く、a、b、c は単なる推量の助動詞であるが、d は打消と推量を兼ねた意味を表しているし、e と f とは強い意志を表している。又 g は推量して断定する意味を表し、h は打消の意味を含めた意志を表している。
以上のようにいろいろな気持を表す時につかわれる語が推量の助動詞である。
推量の助動詞は次のように活用する。

動詞助動詞未然連用終止連体仮定
う、に連なるた、なる、に続く言いきる時、こと、に続くば、に続く
降るらしい〇らしかっ
らしく
らしいらしいらしけれ
出よう〇〇ようよう〇
書こう〇〇うう〇
考えまい〇〇まいまい〇

(ロ)十津川に於ける推量の助動詞

この推量の助動詞について十津川に於ては特別にとりたてて述べることはない。ただ「よう」が動詞や、助動詞につく時、又「らしく」が「ない」に連なる時、変化する。

例この仕事は骨がおれよう
   この仕事は骨がおりょう
   この仕事は骨がおれろう
先生がお話されよう
   先生がお話さりょう
   先生がお話されろう
雨が降るらしくない
   雨が降るらしゅうなあー

(9)断定の助動詞の十津川言葉

(イ)断定の助動詞の正しい使い方

今日は日曜日だ
正直は一生の宝だ
上の「だ」は断定の助動詞で、断定の意を表す。この助動詞は次のように活用する。

月は死の世界だろう未然形
咋日は雨だった連用形
今日は雨である連用形
今日は雨だ終止形
今日は雪降りなのに暖かだ連体形
雨なら休もう仮定形
動詞助動詞未然連用終止連体仮定
ろう、に続くた、ある、に続く言いきるのに、ので、に続くば、に続く
雨だだだっ
で
だななら
君だけだだだっ
で
だななら
行くただ○○○なら
書かせるだだ○○○なら
歩かぬ
歩かん
だだ○○○なら
歩きますだ○○○○なら

仮定形は「ば」に連なるのがたてまえであるが断定の助動詞では「ば」を省略する慣習になっている。例えば「雨ならば休もう」という言葉を「雨なら休もう」としてもよい。

(ロ)断定の助動詞の十津川言葉

「だ」という言葉は室町時代に「である」という言葉ができ、それが後に「だ」及び「ぢゃ」と変化した。「だ」は江戸時代に閑東方面に多く用いられ今日標準語となっている。一方「ぢゃ」は江戸時代に関西方面に盛んにつかわれたが後に「や」と変化し「ぢゃ」は用いられなくなった。然し十津川では「だ」も「や」もつかわず、方言として残っている「ぢゃ」を用いている。

動詞助動詞未然連用終止連体仮定
ろう、に連なるた、に連なる言いきるのに、に連なるば、は省略する
雨ぢゃぢゃぢゃっtぢゃーぢゃーなぢゃったら
なら
君だけぢゃぢゃぢゃっぢゃーぢゃーなぢゃったら
なら
行くぢゃぢゃ○○○ぢゃったら
なら
書かせるぢゃぢゃ○○○ぢゃったら
なら
歩かぬ(ん)ぢゃぢゃ○○○ぢゃったら
なら

「行く」「書かせる」という言葉は連用形、終止形、連体形には活用がないのがたてまえである。然し十津川に於ては「ん」を入れて「た」や「のに」に連続させたり、或は終止形で云いきる場合がある。

例行くんぢゃった行くのだった
行くのであるのに行くのだ
行くんぢゃーのに行くのであるのに

(ハ)「です」と十津川言葉

丁寧な断定の助動詞に「です」という言葉がある。然し十津川に於てはこうした丁寧な言葉は普通あまりつかわなかった。

(10)過去及び完了の助動詞の十津川言葉

(イ)過去及び完了の助動詞の正しい使い方

冬が去った
大工が家を建てた

上の「た」は過去または完了の助動詞である。「冬が去った」の「た」は普通私どものいう過去を表し「家を建てた」の「た」はことがらが完結した意味を表している。
この「た」は動詞、形容詞、形容動詞、及び助動詞の連用形につく語である。

例私は運動した動詞につく
あの花は美しかった形容詞につく
昨日は暖かだった形容動詞につく
字を書かせた助動詞につく

この「た」が五段活用動詞のが行、は行、ま行、な行の連用形につく時は「だ」となる。

例泳いだが行
飛んだば行
死んだな行
読んだま行

「た」の活用は次の如し

品詞語未然連用終止連体仮定
う、に連なるた、ある、に続く言いきるのに、に続くば、は省略する
動詞運動したたろ○たたたら
形容詞楽しかったたろ○たたたら
形容動詞暖かだったたろ○たたたら
助動詞書かせたたろ○たたたら
ま行動詞読んだたろ○だだたら

過去及び完了の助動詞「た」も仮定形「ば」に連なる時、「ば」を省略する。

(ロ)過去及び完了の助動詞の十津川言葉

十津川に於てはこの過去及び完了の助動詞が動詞につく時、動詞の語尾が変化することは先に述べた。

例泣いたなあーた
飛んだとおーだ

未然形「たろ」は十津川では「つろ」となり「だろ」は「づろ」となる。

例走ったろう走っつろう
行ったろう行っつろう
楽しかったろう楽しかっつろう
静かだったろう静かぢゃっつろう
飛んだろうとぉーづろう
読んだろうよぉーづろう

十津川に於ては過去及び完了の助動詞の「た」が、打消の助動詞「ない」の連体形につく時「なかった」となるべきを「なんだ」とつかうことは打消の助動詞のところで述べた。
然し「た」が形容詞の「ない」の連用形につく時は「なかった」と普通につかう。

例走らなかった走らなんだ
飛ばなかった飛ばなんだ
面白くなかったおもしろーなかった
楽しくなかった楽しゅうなかった